実は、ホストクラブで働いた経験があります。とは言っても、数日間(一週間以内ぐらい)だけだったと記憶していますが(ヘルプというらしい)。今思えば、なかなか濃い経験だったので、共有する価値が少しはあるのかなぁ、と思い、覚えている範囲で書きます。
意外とシステマチックな[ドラキュラの巣窟]
あれは10年以上前、私が21歳ぐらいの時だったか。興味本位と言えば聞こえは良いが、高い時給につられた形でした。そこは、ある能力に特化した「ドラキュラの巣窟」でした。
また、客も、吸血中毒に陥った人ばかりでした。吸血とは、もちろんカネのことです。時給(確か2000円ぐらい)+個別に注文してもらった飲食品の何割か(2~5割の変動だったか)がもらえる仕組みでした。
そこには、社会がありました。思っていたよりも、システマチックな社会が。各々の役割分担が、キッチリとできていたのです。
・下っ端ホスト…キャッチ(ナンパ)役や、飲み役
・中堅ホスト…お笑い枠、聞き枠、煽り枠、ヴィジュアル枠、筋肉枠、リズム(コール?)枠、歌唱枠、癒し枠、聞き枠など、何かしらの一芸を持つ
・上級ホスト…売り上げの大半を、一部の売れっ子上級ホストが占める
全員が、この構図を理解しており、各々の役割をしっかりとこなし、次々と吸血(シャンパン)が決まっていく。
もちろん、客も吸血されにきているので、当然と言えば当然なのだが、その空気感が凄いのです。そう、ホストもまた、夢の国であり、空気を売る商売なのです。彼らもまた、感情接客のプロと言えるでしょう。
決して、和みの空間なんかではなく、客は煽られ、高揚感、怒り、哀しみ、恐怖、安堵感、疎外感、一体感…感情をこれでもかという程に揺さぶられていました。客は、踊り狂い、憤怒し、泣き叫び、懇願し、我を忘れて、その空間にのめりこんでいました。その姿は、究極の刺激を求めているようにも、究極の癒しを求めているようにも見えました。多くの客から共通して感じたのは「寂しい」という感情でした。彼女たちは、ホストクラブに「自身の存在の肯定」を求めているのだ、と感じました。
共通した、ある能力
一定のレベルに達したドラキュラには、ある共通した能力が備わっていました。一言で言うと「芸」です。感情接客には欠かせない、「場をつなぐ」よりも高度な、「魅せる」能力です。
そして、中堅以上のドラキュラに、もう一つ共通点があることに気づきました。
「芸風」が「誰かに似てる」のです。「誰か」とは、ほぼ、「テレビに出ている、見たことのある、誰か」でした。なぜか、既視感を感じたのです。特に中級ドラキュラに、この傾向が顕著に見られました。上級ドラキュラは、「誰かと誰かの良いとこ取り」という感じでした。
彼らは、「魅せる」ために、「誰かの真似をする」という行動を取っていました。実際に幹部の人に「皆さんそれぞれ、なんとなく誰かに似てますね」と尋ねたところ、「芸能人のようなもんだし、良いと思ったところは意識してるよ」との返答が返ってきました。その幹部は、木村拓哉を少し鋭くしたような、最強クラスのイケメンでした。
そして、返す刀で「人を見るのが好きなんだな。分析力がある」「慣れてきたら、君はお客の話を聞く役に回るといい。癒し系だ」と、バッサリ斬り返されてしまいました。いつの間にか、良い気分にさせられてしまっていました。
幹部は、源氏名に関しても、いくつ提案してもらっても納得しない(ぼんやりした顔で、ぼんやりした名前ばかり出されて、当時はどうしても譲れなかった笑)私に、時間を割いてくれて、ようやく源氏名が決まると、我がことのように喜んでくれました。ものの十数分で、信頼関係が生まれた感覚になり、さらに、この人とずっと話していたいような感覚になってしまいました。指名力と言いますか、ちょっと、ここまで洗練された能力となると、分析不能でしたが。
ああ、このドラキュラたちは、こんな所で働いて、なんて勿体ないんだ。ここまでのコミュニケーションスキルがあれば、もっと社会貢献できるだろうに。…とは、当時は思えませんでした。彼らは、カネを稼いでいたからです。
興味と、適性と、スキルの問題
当時の私からすれば、「心身共に、極めて不健全」という言葉がピッタリな環境でした。
心底カネが好きなのか、オンナが好きなのか、オンナをダマしているジブンが好きなのか…こんな不健康な環境の何かが好きで、圧倒的に注力し、努力している人たちなんだ。どれを取っても敵わない、と、思わされました。
いやしかし、ここで負け宣言するわけにはいかない。諦めたら試合終了だ。幹部のような能力を身につけたいはずだ。
いやしかし、この環境で成長できる気がしない。酒とタバコと夜更かしで体がボロボロだ。ここは今僕のいる場所じゃない。セケンから見れば黒い仕事で風当たりも強いし、実際に、成り上がりたいがためにヘンなやり方をしている人が多いし、そもそもそこまで興味もないジャンルだし…逆風でしかない。と結論を出して、辞めた。
幹部は「伸びると思ったのに…」と、ウソでも残念がってくれた。「ヘンなやり方をしてる奴が多いせいで働きにくいな、ごめん」とも言っていた。ほとんど意味がわからなかったが、幹部は、本質的には、クリーンなエンターテイメントを目指しているのだろうか。(5Gやブロックチェーンによって、風俗業界がクリーンになることを望んでいます。無法地帯になることは避けたい)
あの時点で辞めたことに後悔は無いが、幹部に出会えたおかげで、人生が3回ぐらいあったら、3回目に1年ぐらいならやってもいいかなぁ、ぐらいには思えました。彼はもはや、ホストなどではなく、どこに出ても間違いなく通用するビジネスマンであり、芸能人でした。
(注意:現状、ホストやキャバクラ業界は、性サービス業界と密接に関係しており、女性の意図せぬ[風俗落ち]などを助長してしまっています。短絡的なスカウトなど、間違ったやり方が横行しています。安易に彼らと関りを持つことは、オススメしません)
得られたもの
① まず、自分の得意分野を探す、といった意味での行動としては、良かったのかなと思います。逆算の意味で、自分の適性を測るきっかけになりました。
② すごいと思える人に会えたことです。ブラックな環境ほど、相反して、研ぎ澄まされた人材がごろごろいる気がする。猫理論的に言うと、ステージ5ぐらいの人なのかな。知らんけど。指名力や、マネジメント力など、共通するスキルやパラメータを獲得できたのなら、他の業界に行っても通用するんじゃないか、という仮説も立ちました。
③ 爪痕は残せなくとも、経験にはなり、自分の現在地からかなり遠い地点(業界)に「点」を置けました。経験は、10年経った今も、記憶に刻まれています。
④ 記憶に刻まれているので、業界と、業界ですごい人のエッセンスを、毒されないだけの好きな量を、好きな時に吸収できる。
そう。本来、他人のエッセンスは、栄養であり、ワクチンとして使うことができるのです。
⑤ 私が脳をずらし、記憶の中を分析するようになったのも、発信を始めたのも、ゼロをイチにした、という経験が実感を帯びてきたからです。人生、30代後半にして、ようやく何かが始まった感さえあります。昔も今も、私は生きていて、今も、生きながら発信する情報を収集しているところなのですが、本当に活きてくる情報は、今回のような、自分の意思で動き、経験し、実感を伴った、文字通り「生きた」情報なのです。そのうえで、ホストを体験したことは「生きた取材」になったな、といった実感です。
まとめ①(小さな社会を経験して、気づいた)
今回、記憶を振り返って記事を書きながら、私の中で、何回も浮かんできては噛み殺した思考が存在しました。
「お前は今、下っ端ホストと違う仕事を何かしているのか?」と、その思考はささやいてきます。
そうです。あれから10年以上経った今、私がサラリーマンとしてやっている仕事の大半が、下っ端ホストの仕事と同じだったのです。私は、今の会社において、下っ端ホストの肝臓程度の働きしか任されていないのです。上司や仲間との人間関係上は、お互いに信頼し合えてはいますが、残念なことに、会社のシステム上は、ロボットの部品のような、歯車のような扱いになっているのです。
この記事を読んでいる人が、どのフェーズにいるのかはわかりませんが、「全体の仕組み」と「自身の現在地」を常に把握しておくことは重要だ、と提議します。そして、「全体の仕組み」と「自身の現在地」は、変わり続けるほうが自然体なんだ、ということも…。
大きな組織の部品であればあるほど、今回出てきた「幹部」のようなスキルは身に付きにくいのではないか、ということです。
まとめ②(ドラキュラのエッセンス)
猫理論による推論「エッセンス思考」の登場です。
人間、経験を積んでいくと、良くも悪くも、脳が横着になり、「関連性」で物事をざっくりと斬るスキルが身に付いてきます。これも「脳ずらし」のスキルなのですが、「浅い理解」と「浅い理解」で関連づけてしまうと「ややこしい誤解」を生んでしまいます。
ただし、情報を「毒と薬」と解釈する場合と、「ワクチンと栄養」と解釈する場合では、大きく違ってくると思います。
若い頃の私は、最低限の耐性を身につけたくて、ホストの門を叩いたのかもしれません。また、闇の社会を知ることで、光とは何かを知るためだったのかもしれません。(壮大な後付けですが)
闇と言えば、ホストとは関係ないですが(ホスト経由で引っかけられるかもしれませんが)ポンジスキーム(詐欺の一種)の仕組みを知っていて、関連づけるのが上手ければ、世の中にあふれるポンジスキームのアレンジバージョンにも対応できるのです。
起業脳の関連づけなんかを身につけると強いです。
ある程度スキルがついた状態で
新しいこと始めると、「強くてニューゲーム」
状態なので楽しいことだらけ。
でも本当に大切なのは、伸び悩んでる元々の事業をいかに建て直し伸ばすか
その壁を越えられた時の嬉しさはハンパないですね🐧
常に困難な壁と向き合いつつ、戦略を練り戦い続けてます
— もふもふ不動産もふ | 菊地夏紀 (@mofmof_investor) November 3, 2019
私が尊敬する、関連づけ脳のメリットを活かし、無双するおじさん(失礼)です。私も追いつきたい。
私も簡単なスタートアップは済ませたので、短絡的なビジネススタイルを見ても、「脳内起業」として、(妄想よりももう少しハッキリとした)イメージで再現することができるようになってきました。「だいたいの目星がつく」というやつでしょうか。(イメージに凝り固まってはダメですが、バージョンアップさえしっかりすれば)
こういった関連づけ思考は、時短や決断力、資金配分など色々な面において、非常に重要だと思います。
関連づけのコツは、ありません。関連づけ脳になるためには、関連付けの経験を積むことです。
関連づけの経験を積むためには、脳のリソースを空けておき、かつ、ポジティブな状態を保つことだと思います。
どの業界にも、すごい能力を持った人がいて、どんな対象からも、エッセンスは得られるのです。ドラキュラからもです。そして、いつか使えそうなエッセンスは、なぜか脳にこびりつて離れないものです。「使え」と、脳が言っているのかも知れません。
あなたも、あなたが思う、「すごい能力がありそうだけど接点はなさそう」ぐらいの人の思考を、「エッセンス脳」を準備して、探ってみるなどしてみると、意外な化学反応が起きたりして、面白いのかもしれません。