山田君

第2話 山田君(仮名)の現状

 

一夜明けました。

 

昨日は、多重債務の発覚ということで、半年ぶりぐらいに会った山田君(仮名)が、僕の知らない間に多重債務に陥っていたことをお伝えしました。

 

今回は、「なぜ、借金嫌いだった山田君(仮名)がたったの数ヶ月で変わってしまったのか」という内容をお伝えします。

 

あまり形式張らずに、軽く彼の紹介をはさみながら、彼の心情の変化を推察しつつ進めていければと思います。

彼に何が起こったのか、あなたや、あなたの周りの人にも起こりうることなのか。思考しながら読んでいただけると幸いです。

 

 

山田君(仮名)のスペック

 

山田君(仮名)の人柄は温厚で、落ち着きのある大人といった感じ。
しかし主張が無いわけではなく、むしろけっこう主張を曲げないところもあり、友人の僕から見ると彼の主張と謙虚のバランスは70:30といったところで、けっこう頑固者の部類に入る印象です。

気になるスペックはと言いますと、

 

山田君(仮名)のスペック

 

年齢 :39歳

配偶者:なし

家  :実家暮らし

仕事 :派遣アルバイト

収入 :手取り約15万円(不安定)

背格好:身長175センチぐらい、痩せ型

タバコ:吸う

博打 :打つ、少額

酒  :呑む

 

 

 

といったところです。両親は既に他界され、妹さんとふたりで暮らしておられます。

決して高収入とは言えないけど、実家で堅実に暮らしている印象ですよね。

 

今回はそんな彼がなぜ数ヶ月という短期間で首が回らなくなってしまったのか、考察した結果をお伝えします。

 

 

裏切りと自暴自棄

 

10年以上の交友がある僕から見た山田君(仮名)の交友関係は、「浅く広く」です。

どの友人よりも気軽に連絡を取れるのが、彼の良いところのひとつです。

 

また彼は「いじらせキャラ」です。容姿の特徴を指摘されても、笑いに変えてあげるような、寛容なところがあります。

そのぶん、相手からすれば、人に言えない悩みなどを打ち明けやすいのです。「聞き役」が得意ということですね。

そして彼は友人を裏切ることはしません。相談がてらの呑みに誘われれば必ず行き、いつまでも話を聞き、自分から帰ることをしません。

そして、呑みが重なって金欠になると、なんと彼は土下座をするのです。「給料日まで貸してくれ」と。

「いやいや、借金嫌いを明言していたんじゃないの?」と思うかもしれませんが、彼の「借金」とは「金融機関経由の社会的な借金」であって、「身内への無心」はするのです。ここで彼を嫌がって交友を断ってしまう人はかなり多いのですが、彼が本当にすごいところはここからなんです。

僕はその無心する行為が一種のギャグのよう、コミュニケーションのようなものに思えて、何度か数万円というお金を貸したことがあります。「友達にお金を貸すなんて」と思うかもしれませんが、僕も個人間の貸し借りでの苦い思いはもちろん知った上での判断でした。

彼の何がすごいって、個人間の貸し借りで裏切ったことはただの一度も無くて、むしろ信用を積み重ねていくことなんです。

ギャグのような金銭のやり取りだけど、やはり滞った時が心配なので、借用書を書かせて貸すのですが、どんなに苦しくても、修行僧のようになって、または乞食をしてでも、返済に注力するのです。そして高額の利子(月利10%相当)をつけて返してくれるのです。

そこまでするならサラ金で借りたほうが得だし気楽なのに、と思ってしまいますよね。でも、彼の価値観は違っていたのです。当時、彼の周りにいた人間は、彼に試されていたのかもしれません。ともあれ、ここまでくれば、一旦きちんと返済させて安心させるような高度なポンジスキームの手口か、社会貢献かのどちらかでしょう。

彼は返済時に、利子もそうなんですが、「あの時、助けてくれてありがとう」と、心から感謝の気持ちを伝えてくれます。

「いやあんた、そもそも相談を聞きに人に会いに行って散財してるのに」と僕は思うのです。

多くの人が彼と深く付き合えない理由はたくさんあるでしょうが、彼なりの「Give」の形は、一般的に見るとかなり異質なようです。

 

さて、山田君(仮名)が何を裏切ったのかという話なんですが、もうおわかりかと思いますが、彼が裏切ったのは「自分自身」です

「救い、救われる」といったやりとりから疎遠になったこともあったのでしょうが、理由はどうあれ、自身が信条としていた「社会的信用」に手をつけてしまったのです。

そうなると、「自分への裏切り」から「自暴自棄」へと進行してしまうのは自然の摂理でしょう。特に、刹那的な彼の性質ならば、なおさら加速度的に。

彼は、母親を亡くしたのは中学生の頃で、そこからはかなり年月が経つのですが、父親を亡くしたのは2年程前で、父親の遺した車を遺品として維持することに固執していたようです。そういった、気持ちの整理がついていないことも、彼の根幹が崩れてしまったひとつの要因ではないかと考察しています。

とはいえ、言うは容易いけど、心の傷はなかなかの難題ですよね。

 

・・・もしかすると、自暴自棄を自ら演じることも、自己の統合を制御するためのひとつの手段だったのでしょうか。

 

 

まとめ

 

今回は、なぜ山田君(仮名)がたった数ヶ月で多重債務になってしまったかというエピソードを、彼の心情の変化をまじえてお伝えしてみました。

車に例えると、メンテナンス不足で廃車寸前だったわけですね。こうなると、再生工場に入れて、部品をバラして磨かなければいけません。

 

彼は昨日、定食屋で味噌汁をこぼしました。「今まで生きてきて、一番熱い味噌汁だった」とシュールに表現していました。それぐらい、ひどいこぼし方をしたのでしょう。そんなひどいこぼし方をしてしまうぐらいに、疲弊していたのでしょう。

この熱い味噌汁の件で債務整理を決めた、と彼は言っています。

債務整理をすると彼はブラックになってしまうので、それに関しては色々とやりとりはしましたが、今回は僕も合意しました。彼が傷を癒やして社会復帰するのには、最長5年という債務整理の期間がぴったりかもしれないと思ったからです。

 

着実に人生を歩んでいたとしても、何かささいなきっかけで歯車が狂い、知らないうちに自身が大切にしている信念にまで手をつけてしまい、自己の根底が大きく揺らいでしまう。こんなことがある、という、誰にでも起こりうるひとつのエピソードなのです。

 

債務整理に同意すると同時に、僕は、彼にひとつの提案をしました。

 

・・・その話は、また次回で。